1
静かに訪れる別れの朝。
ビスコッティでは見送りの式典が開かれるが、リコッタはひとり、懸命に記憶消去回避の道を探していた。
しかし現れた制服姿のシンクに、リコッタは涙を落とす。間に合わなかった事、自分の力不足を詫びるリコッタに、シンクは地球から持ち込んだ品をプレゼントする。
「元の世界に帰ったら記憶をなくし、二度とフロニャルドに来られない」という事実を隠していたシンクとリコッタだったが、見送りのエクレールも、送還するミルヒもその事実は察していた。
それでも笑顔で別れようとするミルヒだったが、送還の瞬間には「行っちゃやです、ずっといっしょにいたいです」と訴えてしまう。ミルヒの思いになんとか答えようとするシンクだったが、二人の手は離れ、シンクは元の世界に送還されてしまう。
2
4月4日。自分の部屋で目を覚ましたシンクは、やはりフロニャルドにいた間の記憶を無くしていた。
幼馴染みの記憶喪失を心配するレベッカだったが、シンクは平常を装う。
約束していた旅行に行き、両親やレベッカ、親戚&師匠のナナミと楽しく過ごしていても、どこかで何かが――。「大切な事がぽっかり抜け落ちている感覚」が、シンクの心の中で引っかかっていた。
一方、フロニャルドでは失意のリコッタの元をノワールが訪れ、召喚に関する書物を差し入れていた。そして、リコッタが各国から集めた膨大な書籍の中から、一枚の封筒が現れた。
3
ビスコッティ領主の印のつけられたその封筒は、王立研究院宛の、送還に関する文書。
召喚勇者とフロニャルドの関わりを永遠に断ち切る「送還」ではなく、再び召喚が可能となる「一時帰還」に切り替えるための条件がそこにあった。
それは一見複雑で困難な条件ではあったが、勇者でいた間にフロニャルドで思い出を築いた勇者と召喚主、そして召喚国の住民達であればごくあたりまえのことでもあった。
91日以上の時間を開けさえすれば、再召喚は可能となった。そして封印されたシンクの記憶を解放するため、タツマキがシンクのもとへパラディオンを送り届ける。
4
これはビスコッティの勇者、シンク・イズミの最初の冒険譚。
フロニャルドで過ごした日々、出会った人々の事を全て思い出したシンクは、約束通りにまた夏休みにフロニャルドを訪れる事を思う。(今度はきっとレベッカやナナミも一緒に)
ビスコッティの皆もまた、シンクから預かった品を大切に預かりながら、夏が来るのを心待ちに笑顔の日々を過ごす。
「中学1年から2年に変わる春休み、僕は勇者でした。夏休みにはまた勇者になりに、あの場所に帰ります!」
この勇者、やっぱりノリノリである。